東京から台風を逃れて香港経由でチェンマイに戻ってきた。機中でみた映画は見逃していた「メッセージ(Arrival)」だった。地球外生命体とのコンタクトということで、、SF映画だと軽く構えていたが、実際は全く異なる感動的な作品で、鑑賞後には思わず涙がこぼれた。
この作品で深く描かれていたのは、私たちの常識とは全く異なる「時間」と「言語」に関する認識だ。
この作品で深く描かれていたのは、私たちの常識とは全く異なる「時間」と「言語」に関する認識だ。主人公が習得する地球外生命体(ヘプタポッド)の言語「ヘプタポッドB」は、サピア=ウォーフの仮説1を表現していて、この非線形な言語を深く理解することで、彼女は過去・現在・未来を同時に知覚する能力を得る。この新しい時間認識のあり方が、物語の核となっていると思う。言語が思考や世界の見え方を形づくるという考え方を、物語の中で具体的に見せている。
この言語「ヘプタポッドB」は、私たちの言葉のように「順番に並べて伝える」ものではなくて、最初から全体が一つのまとまりとして成り立つという非線形の言語だ。
主人公がそれを深く理解していくにつれて、ものごとを「過去→現在→未来」と直線で捉える感覚が変わり、過去・現在・未来を同時に見ているように感じられるようになる。そして、この新しい時間の感じ方こそが、物語全体の中心テーマになっている。
さて、映画の感動を支える要素として、まず最初に言及したいのが、とても効果的だったマックス・リヒターの音楽だ。彼のアルバム『The Blue Notebooks』に収録されている「On the Nature of Daylight」が映画の最初と最後に流れ、物語に静謐な深みを与ている。この曲は、同じフレーズをひたすら繰り返すミニマル音楽の典型だが、その響きは、劇中の静かで霧がかったような映像美とか、異星人との対話の際の緊張感と静寂と見事に呼応していて、映画のトーンと哲学的な深みを見事に増幅させていて、本当にゾクゾクしてくる。
これは後で調べてわかったことだが、この曲のタイトルの背景にある思想も、物語と深く共鳴している。タイトルは、古代ギリシアの哲学者エピクロスの宇宙論を、ローマの哲学者ルクレティウスが解説した『事物の本性について(On The Nature of Daylight)』から取られている。その思想は「死とは原子に還ることであり(徹底的な無神論ではあるものの)、生命は永遠だともいう」というものだ。
(ネタバレ含む)映画の主人公は、直線的時間意識(過去→現在→未来へと流れる時間)にとらわれない時間認識の中で、未来に誕生する娘の死という悲劇を知る。にもかかわらず、彼女はその命の「プロセス全体」を愛し、すべてを受け入れるという「選択」をする。すごい。この主人公の選択こそが、ルクレティウスが言う「生命の永遠性」を、科学ではなく人間ドラマとして深く描いているものではないかと。
映画の最後で再び流れるマックス・リヒターの「On The Nature of Daylight」は、この深い感動と共に響き渡り、絶対に観客の涙を誘う。まさにこの映画のために作られたかのように完璧に調和していた。ただのSF映画の枠をはるかに超えていて、とても哲学的で、そのテーマの深は「精神的な感動や洞察に満ちた(スピリチュアルな)」作品だと言えると思う。
まだ観てない人はぜひぜひ。
余談になるが、音楽監督はヨハン・ヨハンソンなのだが、彼の作った楽曲は最終的に映画の大部分で使用されなかった。この経緯は、映画音楽の世界では非常に珍しいケースらしい。ヨハン・ヨハンソンも大好きな作曲家だ。
- サピア=ウォーフの仮説:言語の構造が、話し手の思考や世界認識を決定または影響するという言語学の仮説。使っている言語のしくみが、私たちの「ものの見方」や「考え方」に影響するという考え方。(強く言う人は「言語が思考を決めてしまう」とまで言う)。映画『メッセージ』で起きる時間の捉え方の変化は、まさにその強い考え方(=言語が思考を決める)を、物語の中で目に見える形にした例だと思う。
つまり、ある言語を身につけたことで、主人公の時間の感じ方そのものが変わってしまう、という描き方になっている。 ↩︎
Max Richter – On the Nature of Daylight
映画「メッセージ」トレイラー
【後日記載】こんな動画がYoutubeにありました!
やっぱり思いっきり深掘りしたい人がいるんだな。笑:【解説】超名作SF映画「メッセージ(Arrival)」は何がすごいのか?どういう話だったのか?時間系SFの魅力が理解できる動画【途中からネタバレ】



