ビョークが歌うタヴナーを聴く〜チェンマイの夜カエルの大合唱と心の祈り

音楽と思索
ビョーク×タヴナー『Prayer of the Heart』感想|チェンマイの夜の瞑想体験

ラジオに音楽のリクエストを送るなんて、中学生の頃に深夜番組へこっそりハガキを出して以来のこと(一度も採用されなかったけれど)。 それが、ネットラジオのクラシック音楽ステーション『OTTAVA con brio』では、実はこれまでに3回送って、3度とも採用!いやはや、嬉しいもんですなあ(^^)うふふ♪

今日ご紹介したいのは、2010年7月20日の夜、プレゼンターの斉藤さんが「ワタシのために」選んでくれた運命の一曲です。

その時の私は、ちょっと弱気になっていて。「今落ち込んでいます、どうせならドン底まで行きたい。もっと深く落としてくれるような曲を」という、少し無茶なリクエストのメッセージをしてみました。自分らしくないけれど、あの時はそうやって、ちょっと若い頃みたいに(中学生がラジオにハガキを書くような)弱音を吐いてみたかったのだと思います。

そこで斉藤さんが選んでくださったのが、この曲。 以前ペルトの宗教曲をリクエストした際、「えええ、これをチェンマイで聴くんですか〜?」と驚かれた私の好みを(そしてチェンマイ在住という珍しさも)しっかり汲み取ってのことでしょう。これがもう、見事なまでの「大当たり」でした。これがその曲!↓↓↓↓↓

ビョークが歌う、タヴナー作曲:『Prayer of the Heart』

ジョン・タヴナーが好きで、おまけに歌っているのがビョークだなんて、驚きを通り越して圧倒されました。

曲が始まると、弦楽四重奏の低いドローン(持続音)が静かに響き、自分の内面の暗黒の奥底へゆっくりと沈められていく。 窓の外は、熱帯の夜気と湿り気に満ちたチェンマイ。田園地帯に響き渡るカエルの大合唱が、かえってこの「祈り」の静寂を際立たせます。極北の氷のような透き通った音世界と、タイの生命力あふれる夜の音。この強烈なコントラストが、音楽をより深く、身体的な「瞑想」へと変えていきました。

胸にズズ〜ンと重く来るこの感覚……。 でも不思議なことに、ドン底へ一直線かと思いきや、そこには「一筋の灯」があるんです。モーダルな変化1を巧みに使い、万華鏡みたいに色のグラデーションがじわじわと変わっていくような変化。音の揺らぎ。それは、東方正教会の神秘思想に深く根ざしたタヴナーの音楽が持つ、再生への暗示。ただの暗黒ではなく、希望が微かに、けれど確固として残されている。その灯こそが、この曲のパワーと美しさの正体なのだと感じました。

現代宗教音楽の大家タヴナーが、ビョークの「野生の美しさと純粋さが共存する声」に惚れ込み、彼女を指名して書き下ろしたというこの曲。 歌詞は「イイススの祈り(Jesus Prayer)」が繰り返されています。

「主イエス・キリスト、神の御子よ、罪人なる私を憐れみたまえ」

ギリシャ語、英語、そしてコプト語……。ビョークの吐息のような歌声が、言葉の壁を超えて心の深淵に届きます。

リクエストの時は「もっと落として」なんて言ったけれど、こんなに素晴らしい音楽に出会えた喜びで、結局は心がふわりと浮上してしまいました。 暗闇の底でしか見つけられない光があることを、この曲と、驚きつつもリクエストに応えてくれた斉藤さんが教えてくれた気がします。

  1. モーダルな変化: 一般的な「明るい・暗い」といったハッキリした転調ではなく、特定の音階(モード)を使い、霧が晴れたり深まったりするように、じわじわと曲の色彩や雰囲気を変えていく手法のこと。 ↩︎

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