冠の端を横切った光 ― 10秒という時間の層

星空の思索
流れ星が通過した10秒|南のかんむり座とオリオン座流星群の夜

南の空の低いところ 沈みかけた南のかんむり座が 細い光の輪のように輝いていた。
その向こうにいて座の星々が浮かび さらに高い空には アルタイルが煌々と輝く。
全てが空の季節の境を語っているような位置。

その夜はオリオン座流星群の極大を迎える日。
夜8時ごろ まだ東の空にオリオンが昇りはじめる前。
私は天の川がある南の空へレンズを向け 十秒の露光をかけた。

シャッターを切った瞬間 近くで停まっていた車のエンジンがかかり 赤いテールランプが闇を染めた。
ほんの10秒・・・
そのわずかなあいだに ひとすじの流れ星が「かんむり」の端を横切っていった。

撮影後の画面はテールランプの赤に染まり 星々の輪郭はほとんど見えなかった。
それでも流れ星の軌跡は確かにそこにあった。
私はその奇跡を信じて 赤を取り除く作業を始めた。
青を取り戻すほどに夜は静まり、同時に天の川の細やかな星々が姿を消していった。

完璧を求めるほど、 あの夜の呼吸が遠のいていくように感じた。
けれど、テールランプの赤も 星の青も どちらも同じ宇宙の一部に違いない。
流れ星は その境界をつなぐように走り抜けた。

天と地、偶然と意図、生と消滅。
そのすべてが10秒という短い時間の中で ひとつに重なっていた。

添えた音楽は、ヨハン・ヨハンソンの《A Pile of Dust(塵の山)》

視覚的には静止した一枚の写真が、
この音楽によって、時間を内包する映像のように立ち上がる気がする。

流れ星が通過した、あの10秒。
それが音の粒によって、ゆっくりと再生されていくような感覚。
宇宙の塵が光に触れて、現れては消えていく
そんな循環を思わせる音楽です。

淡く滲む弦の呼吸は、
「生」と「消滅」のあわいに揺れる光そのもの。

テールランプの赤に覆われた写真から、
星々を取り戻す過程で失われていった天の川の細部。
そして、消えてもなお、そこにある光。

完璧ではない美。
消えゆく瞬間に宿る真実。
時間が深く息をする、その感触を、この音楽は静かに広げてくれます。


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