バーンガーム セーンドゥアン บ้านงามแสงเดือน
その名前だけでもう、月の光の匂いがする。
メーリムに住んでいたころ、 実はもうあったんだって。
…全然気づかなかった。
てか、当時からメーリムのエリアは素敵なカフェが多かったし(今はもっとすごい。カフェ天国状態)、私は行きつけのカフェで満足してたし、あの範囲だけで多分、世界が完結してたのかもね。
どんなことにおいても、満たされてると新しい扉って探さないもので、探さなければ、当然ながら見えないまま。
メーリムを離れてからもう10年以上になるけど、数年前になんとなしの通りすがりにふいに出会ってしまった。
なんで私はもうあの町に住んでいないあの日になって、なんの予告もなく、ふっと気づいたんだろう?しかも、結構有名なカフェで、友人たちの多くが知っていたり、深いお付き合いがあったり。
それがまた 「その時」なんだろうね、多分。
運河沿いの木々の影に隠れるように佇む古民家で、名前も บ้านงามแสงเดือน
「美しい月の光の家」
月の光みたいに、必要な人の前にだけ、そっと姿を見せる場所なのかもしれないよ。
確かにそんな気配が漂う静かで落ち着いた場所。
軒下をくぐったら、看板猫が寝転んでて、「まあ、好きにしていきなよ」っていう雰囲気。
中に入ると、手仕事の布とか、古い家具とか、誰かが大事に使ってきた器とか、とにかくいいものに囲まれる感じで、てか、それがこの家の静けさをつくってるんだと思う。
ハーブティーより先に届くのは、空気の奥にある時間の深呼吸みたいなもの。
あれは空間の記憶なのか、家の記憶なのか、私自身の記憶なのか分からないけど。
思わず立ち止まっちゃうくらいゆるんでしまう。
昔の私は見えなかったのに、今の私はこんなふうに受け取れるんだな、と思う。
人生のある瞬間にだけ開く扉って、やっぱりあるのかもしれない。
バーンガーム セーンドゥアンとの遅い出会いは、そのひとつだった、と思う。
そんなふうにして出会ってしまったから、結局ここは、私にとって月の光みたいなちょっと特別なカフェになっている。



